015【総合】センスとは言葉の順番である

015【総合】センスとは言葉の順番である

向き不向きなんてないと思っていたけどやっぱりある

2022/9/3

こんにちは、今日の特別講義は「総合」です。 テーマは「センスとは言葉の順番である」について。
では、授業を始めます。

■向き/不向きは“量”の問題か?

かつてのぼくは「簡単に向き、不向きなんて話をするな」と思っていました。実際、過去にこんなエッセイを書いたことがあります。少し長いですが引用しましょう。
2010-08-06 <向き/不向き。> ピカソって、絵が上手じゃないですか。そりゃあもう、相当に上手なわけです。では、ピカソがあなたよりも絵を描くということに<向いている>のかというと、それはわからないんじゃないか、と思うのです。 おかしなことを言っているなんて、無視しないでちょっと聞いてくださいね。あなたとピカソのどちらが絵を描くのに向いているかというのは、あなたがピカソとおなじだけ絵を描かないと、わからないんじゃないかと思うのです。 現状、ピカソがあなたよりもたくさんの絵を描いていて、あなたよりも絵が上手だったとしても、それはピカソが<向いていた>からではなく、単に絵を描くのが好きで、それに費やした時間が長かったからなんじゃないかしらん。 そう考えると、ものごとの<向き/不向き>というのは、ほんとに「最後の最後」あたりの話というような気がします。 なにかにつけて、向いている/向いていない議論というのは、その対象と「付き合っている時間」の差なだけで、実際のところは<向き/不向き>の話をする段階にまで来ていないのではないかなぁ。ぼくはそう、思うのでした。 才能のせいにするのは簡単だけど、それだと両親に失礼ですからね。
12年前に書いた文章です。今なお「そうかもしれない」と思う部分はあるものの、大人になり、現実を知っていったうえで、考えが変わってきました。
なぜかふと今日、「変わってきた考え」が言葉にできたので、その話をしたいと思います。

■とにかく順番が重要な世界

ぼくはコピーライターです。実際、仕事人生のほとんどは、なにかしらの文章を「書く」ことで生きてきました。今なおそうです。
コピーライティングの対象はさまざまです。「そうだ 京都、行こう。」といった10文字にも満たない言葉で目標を達成する場合もあれば、セールス・ライティングのように数千文字を費やして、商品やサービスの購入を促すこともあります。
ただ、なにを書くにせよ、決定的に重要なポイントがあります。
「順番」です。
一文のなかでの語順もあれば、全体のなかのブロック単位での構成もあります。コピーライティングの肝は「感情」のデザインです。それは漫画や映画と同じく、伝える「順番」に強く依存します。

■いつどうやって金額を伝えるか

セールス・ライティングの場合、いつどのように価格を提示するか、が成否を分けることが少なくありません。テレビショッピングを思い出してください。
いきなり「9800円です!」と言ってから商品の説明や、今回だけの特典を伝えるのか、最後の最後で同じ価格を伝えるのかで、受け手の印象は大きく変わります。ただ伝える順番が違うだけにもかかわらず。
あるいは、「29800円です!」と言ったあとに「でも待ってください。今回だけの特別価格、今から30分以内にお電話くださった方だけ、なんとなんと赤字覚悟の9800円でご提供します!」と発表するのか。
それとも先に「9800円です!」と明かしてから「でも本当は29800円なんですが、今回だけ特別です。赤字覚悟で30分以内に電話くださった方だけです」と言うのか。
機械的に意味だけを取れば、どちらも全く同じ内容です。同じ情報を伝えています。
だから、これがセンスなのです。

■“一緒じゃないか”で分断される世界

一文のなかでの語順では、そこまで差がわかりにくいかもしれません(実際にはかなりの差があるわけですが)。それがブロック単位、構成単位になってきたときに、同じ内容を伝えるにせよ、どういう順番にするのか。
もちろん知識もあれば、知恵もあります。技術は生まれもったものではなく、身につけるものです。だからコピーライターではないあなたより、仮にぼくの方が上手だとしても、それは単にキャリアの差かもしれません。
問題は、「順番が違う」ことへの感度です。
自分では(まだ)できなくとも、プロの文章を見て「なるほど、この順番か! 確かにこの順番のほうがいい!」と思えるのか、「順番は違うけど、だからなに? 言ってること同じじゃん」と思うのか。
残念ながら、これは教えられるものではないのではないか、と今のぼくは思っています。だから、センスもあるし、向き/不向きもあるかもしれないと。

■求められるモノサシの精度

言葉の順番、というのはもちろん一例であり比喩で、他のどんな業種や業界でも、似たような点は見つかるでしょう。
例えば女性のワンピースに花のブローチを付ける。それをどこに付けるのか。左胸か、右肩か、それともお腹の中央か。そのとき「どこでも大差ない」と感じるか、わずか数センチ、数ミリの差をまったく違うと捉えるか。
無論、ぼくに生まれつき言葉の順番に関する能力やセンスがあったとは考えられません。まず間違いなく、生得ではなく修得したものです。
それでも、気づいたときには、差があります。
ある領域で、一定期間以上、他の人と同じように励んでいるにもかかわらず、相変わらず「順番が違うだけで、だからなに?」と思うものは、やはり向いていないのでしょう。センスがないのでしょう。
職業人として、これはもう、認めざるを得ません。


以上です。圧倒的な存在を目の前にしたとき、「認めざるを得ないなにか」を体感します。そういった相手と出会えることは、幸せなのか、どうか。
では、今日の授業「センスとは言葉の順番である」はここまでです。
また次回。

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